カテゴリ:
未来都市

ドゥダメルは、アイヴズの革命的側面から現代的なアプローチをする。

アイヴズの音楽構造、とりわけ複雑なテクスチュア、複調性、同時に進行する違ったテンポでなされる違ったリズム、聴き取りが可能かどうかよりそこにそれがある、ということを重視している。

置かれているのと同時に現れる複数の引用断片などが、いかに彼の作曲上の主義主張、音楽美学、世界観と深く結び付いているかをドゥダメルは知っている。

耳をつんざくような不協和音、何の脈絡もなく突然出現するマーチを情景描写的に理解していたのではいつまでたってもアイヴズの真の意図は理解出来ない。

アイヴズのパッチワーク的な音楽構造を忠実に再現することによってのみ、アイヴズがその音楽で言わんとしたエキセントリックな世界観(現実肯定)を具現化できるのである。

他の指揮者と比べ(アイヴズ理解の重要な鍵である)テクスチュアにおける断層、重層をより強調して演奏することで、たとえ、聴衆がついていけないと感じたとしてもドゥダメルはそれを辞さない。

アイヴズの音楽と認めるということは、その異種混合的なテクスチュア、「本当の美しさとは画一化されない、人生がそうであるように」という主張を認めることである。

均質でないスタイル、断片的でありつつ首尾一貫性とは違うカオスの中にも必然的に生じて来るような力に基づく秩序(強度の輪郭)を有する、絶えざる変化の世界。

それこそ、アイヴズが目指したヨーロッパ様式によらない音楽である。

異種混合性へのテロジェニティ、それはアメリカの現実であり、本質なのである。

これに対してテンポも速めに、人工的ではない統一を目指した知的なアイヴズの傾向(盛り上げていてストンと落とす、ちぐはぐな旋律やリズム、イケイケムードでぶっとばす)を捉えたティルソン・トーマスの演奏では、人は今でもそのサウンドの斬新さに目を奪われ、アイヴズの持つ音楽の真の芸術的価値を分かりにくくさせるのかもしれない。